Story

結晶釉に出会ってからのお話を、
まだ40代だった頃につれづれに綴ってみました。

 0.キラキラとレンチン 

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私が初めて結晶釉の焼き物を知ったのは、かれこれ25年くらい前のことでした。。。と、今、振り返って自分で驚いてしまいましたがww これを辿ってみるのも悪くないかも(!?)などと思ってしまいましたので、ゆる~く思いつくままに綴ってみようと思います。

初めて手にしたのは、15年くらい前。
その時に思ったこと。
「これ、レンチンできるん?」
えっ?そこ?って感じですが、食器を見たら思いませんか?普段使いとしては、重要なポイントだと思うんです。

結論から言えば、レンジOKです。
もちろん、耐熱容器みたいにアッツアツにするのは怖くてできませんが、普通に、冷めたおかずを温め直すとか、ミルクをマグに入れて温めるとか、レンジでやってます。問題ないですね~

当然、初めて見た時に、これを作ってみよう!なんて思ったわけではなく、こんなのは自分では作れないものだと認識していましたので、そのうつわをチンするはずもなく。。。
初めてチンしてみたのは、自分で作った結晶釉の器だったわけですが、じゃぁ、なぜ、自分では作れないはずの器を作ってるのか…
長い長い、長~い話になるのです(^^;)

(つづく・・・)

 1.結晶釉との出会い 

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そもそも、結晶釉を初めて知ったのは、テレビでした。
NHKの「焼き物探訪」という番組で、結晶釉の作家さんを取り上げた回があったんです。確か、大学生のころ。。。
趣味で陶芸を始めたのは大学生の頃でしたから、それで、そういう番組を見てたんですよね。

その番組で、今でも印象に残っているのは、その作家さんが、とにかく、つきっきりで、窯の温度調整をしている姿。
そして、その窯から出てきた、キラキラとした大きな結晶が浮かび上がった作品。
こんなすごいものがあるのかー!!って感じでしたよww
でも、それだけで終わってたんです。すごいもの作ってる人が、おるんやな~って感じで。

ところがです。
それから十年くらいたったころ、北海道旅行に行った両親から、お土産にもらってしまったんですよ、結晶釉のぐいのみと珈琲カップと小皿を!生で見たのは、これが最初。
でも、だからって、すぐに、これを作ってみよう!なんて、恐ろしいことはもちろん、考えなかったんですが。。。

(つづく・・・)

2.キラキラにとりつかれる

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北海道旅行のお土産にもらった真っ白な生地に真っ白な結晶が浮かび上がったぐいのみで、日本酒を飲もうとしたんです。
日本酒を注ぐと、その結晶が・・・!!

おそらく、これは、結晶釉の器を使ったことがある人ならわかってくれるはず。透明の液体を入れると、結晶がキラキラキラキラするんです。これは、けっこうよく言われます。水盤みたいにしてお花を入れようと水をはったら…、キラキラで!とか、マグカップを洗おうと水に浸けたら…、キラキラで!とか。。。
で、お酒を注ぐとその現象がおきました!当然です。
(写真は、その時のぐいのみではなく、自分で作ったぐいのみですが・・・ww)

ダメです。
だんだん、お酒もまわってきますしね。。。

なにこれ!
なんで、こんなに綺麗なん?
めっちゃ、キラキラしてるやん!
どうなってるん?
どうやって作ってるの?

そのキラキラにとりつかれてしまいました。
そのころ、まだ、仕事と言えるほどには、焼き物はやっていなかったのですが、結晶釉とは全然違う手法の、普通の陶器を作って、たまには売ったりもしてましたので、ついつい、作りたくなってしまったのです。
とうとう、恐ろしい世界に足を踏み入れてしまったのでした。

(つづく・・・)

3.文献あさり

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 結晶釉を作ってみよう! なんて思い立ってみたところで、そもそも、普通の釉薬だって、釉薬屋さんが作って売ってる既製品を買っていた私ですから、釉薬の仕組みさえわかっていないわけです。
そこで、まずは、釉薬とはなんぞや?からスタート。

いやいや、そんなんでいけるんかいなぁ~?、な世界ですが、いけると思ってたんですね~、その時は。
それで、手元にあった釉薬関連の本を読んでみたり、(一応、手元に少しは陶芸の本がありましたw)図書館に行ったり、本屋に行ったり、とりあえず、手軽に手に入るものからチェックしたんです。
幸か不幸か、陶芸ブームがけっこう来てた時期でしたから、思った以上に、そういう本もたくさんありました。雑誌みたいなのから、専門書みたいなのまで。

それで、なんとな~く、釉薬の原料はどんなもので、それぞれの原料がどんな働きをしてて、どんな割合で混ぜると、だいたいこんな感じになるらしい…という程度の、ざっくりにもほどがある!と言いたくなるような知識を得たわけです。
こんなとこからやってたんかい!?って感じですが、そのざっくりな知識も、今、「説明して!」と言われると、このノートを見なければ説明できませんが。。。ww

しかし、まぁ、当然、その程度の知識で、基礎釉ならともかく、結晶釉が作れるはずもなく、今度は、結晶釉で検索をかけまくって、ネットやら文献やらから、調合例をゲットしました。意外とたくさんあるんですよね、これがww ネットはすごい!! で、とりあえず、その中の1つを選んで、調合してみたわけです。

そしたら・・・

(つづく・・・) 

4.運命のいたずら

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たまたま選んで調合した結晶釉を普通に焼いてみたんです。いや、ちょっとは焼成に工夫をした…かもしれない。あまり記憶がありませんが。こんなんで、出るはずないよなぁ…と思いながら、とりあえず、焼いてみた。。。
そしたら、出てしまったんですよ、結晶が2個!

2個か~い!!
って思われるかもしれませんが、絶対に出ないだろうと思っていたのに、2個も出てしまったんです。それも、適当に調合して適当に焼いただけなのに。
これを運命のいたずらと呼ばずしてなんと言いましょう?!ww

これ、ちゃんと真面目にやったら、出るんちゃうのん?
って思っちゃったんですね。

いや、しかし、今振り返っても、あの時、あの調合で、あんな焼き方で、なぜ出たのかはわからない。出るか?普通?って感じのことをしてたんですがね。でも、出ちゃったわけで、それで、いけるんちゃう?とか思っちゃったわけで、ハマってしまったわけです。

運命です、これはww

(つづく・・・)

5.実験開始

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 いけるんちゃう?とか思ってしまっていますから、まずは、ネット&文献あさりで、十数種類みつかった調合例の原料を仕入れました。これがけっこう色々ありまして、なんで、そんなもん入れてあったんだろう?とか、今なら思うようなものまで買ってました。
なにせ、な~んにもわかってないですからww とりあえず、書いてあるものは買って入れてみる感じです。今思えば、無茶苦茶です。

そうそう、その時に、乳鉢と上皿天秤も買ったんです。小学校の理科室にあったあれですよww って、きっと今どきの子は知らない。。。けっこう高いんですね、上皿天秤って。小学校の時、適当に扱ってごめんなさいって感じですw

とりあえず、実験用に少しの量を調合するには、デジタルより、上皿天秤の方が正確に測れるだろうと思いましたし、乳鉢で原料をきちんとすりつぶさなければいけないとも思いましたしね。薬包紙も束で買いましたね。今も、工房にいっぱい余ってます。型から入る人です、たぶんw

気分は理科の実験で、実は、けっこう楽しかったw そういえば、小学校の時、理科委員だったわ…とか、中1の時、理科のN先生好きだったよなぁ…とか、そんなことを思い出しながら、調合してたわけです。

(つづく・・・) 

6.実験室化

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近所の100均で、小さなタッパーをいっぱい買ってきて、い、ろ、は、に、ほ、へ、と、・・・とかマジックで書いて、それに調合した釉薬を入れていきました。
なんで、「い・ろ・は」やねん!って言われそうですがww なんか偉~い先生が書いてた調合例が、い・ろ・は別だったんです。ただそれだけ。その方が、結晶が出そうな気がするでしょう?たぶん、古~い文献だったんでしょうねww

「いろは・・・」に、「イロハ・・・」に、とにかく、見つかった調合例を片っ端から、測っては、乳鉢で擂って、水で溶いて、さらに擂って、タッパーに入れて、記録して…。さらに、ちょっと配合を変えたのも、「い-1」「い-2」・・・とか書いて作ってみたり…。ハマってしまっていますから、まぁまぁ緻密なこともできてしまいます。当時の記録データを見ると、「なんか、パワーあったんやなぁ~、私」なんて思ってしまいますww

でも、よく考えると、もっと効率よくできたんじゃないの?って思うんですが、その時は、それで頭がいっぱいだったんでしょうね~
そんなこんなで、工房が、だんだん実験室になってきました。


(つづく・・・)

7.実験用カップ

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 実験用の小さなカップも山ほど挽いて、素焼きしました。板状のものや、板に棒が立っているような形のものをテストピースに使う人も多いですが、実際に使うカップ型の方が、釉薬の垂れ加減や内側と外側の違いがわかりやすいので、カップにしたんです。

カップは轆轤で挽くので、粘土板を作るよりは、ちょっとめんどくさいですが、でも、形を揃えなきゃいけないわけでもないですし高台も、そんなに丁寧に削る必要もないですしね。
実は、そのころまでに、師匠のところで、轆轤の練習を兼ねて、絵付け体験用の湯のみを山ほど挽かせてもらってたことがあったので、カップ型を挽くのは、平気だったんです。
色々なことが、色々な場面で、密かに生かされますね。

で、そのカップに、釉薬をかけて、とりあえず、焼いてみるのですが、この焼く作業にも、大きな仕掛けがあるんです、結晶釉は。


(つづく・・・) 

8.焼成方法

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 普通の陶器は、電気窯で焼く場合、3時間半ぐらいかけて、560℃くらいまで温度を上げます。続いて、2時間程度で900℃まで上げて、さらに、3時間半ぐらいかけて1230℃まで上げます。900℃と1230℃で、それぞれ10分~20分程度の練らし時間を作るのが、おそらく、一般的な焼き方だと思います。なぜなら、電気窯のマイコン設定がそうなってます。(今も、マイコンの説明書を見ながら書きましたww)
もちろん、作家さんによって、使う粘土や原料によって、少しずつ焼成曲線は変えてあると思いますが、まぁ、標準的にはこんなパターン。

ところが、結晶釉の場合は、決定的に違う部分があります。
最高温度まで上げた後、100℃程度下げた温度で、数時間の練らしをするのです。どうやら、その間に結晶が作られるらしい。。。
結晶ができるところを見たことないですから、「らしい・・・」としか言えませんが、本には、そう書いてありますww

もちろん、焼成曲線についても、あれこれ調べてみました。
ところがこれが、みんな違う!

まぁそりゃぁ、結晶釉は大概、生地が磁器土ですし、あっ、磁器の場合は、陶土より高い温度で焼くんです。だいたい1300℃が一般的(?)だと思います。
私、陶土でやりたいしなぁ。。。
1300℃まで上げたら、練らし100℃下げても1200℃やん?
でも、それくらい上げんと、釉薬、融け切らんのかなぁ?
と、まぁ、そんな感じで、謎だらけになるわけです。


(つづく・・・) 

9.焼いてみる

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 謎だらけになったところで、とりあえず、焼いてみないと始まらないわけですから、焼いてみました。実験用カップの裏に、い、ろ、は、に、ほ、へ、と・・・って書いてw
それぞれの釉薬をかけて、とりあえず、1230℃まで、いつものパターンで温度を上げてみて、100℃下げたところで、2時間ぐらい?

結果は惨敗。
そんなに、うまくいくはずはないですよね~うまくいかなくて当たり前なんですが、多少は、期待して焼いてますから、ガックリくるわけです。窯の中で、器を並べる棚板に、べったりと釉薬が流れて垂れてるのがあったり、逆に全然溶け切っていないのがあったり、結晶どころの話でない。

一回焼くのに、けっこうな手間がかかっていますから、本当にガックリくるんですよ。でも、ガックリばかりしてても始まりませんから、全部、結果を記録して、何がどうなのか推測します。そうすると、色々なことを思いつきます。

最高温度をもうちょっと上げてみる?
練らしの時間を伸ばしてみる?
練らしの温度を変えてみる?
ちょっと配合変えてみようか?

そんなことをしているところに、スーパーキルンなるものをゲットするチャンスが訪れました。

スーパーキルン??


(つづく・・・) 

10.スーパーキルン

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ちょうど、あれこれと実験している頃に、師匠が工房を引っ越しされたんです。それで、師匠が昔使っていたスーパーキルン、いらないか?と声をかけてくださったのです。
そもそもスーパーキルンって、何?っですよね。私も思いました。
普通、電気窯で焼くと、最低でも9時間半ぐらいはかかる焼成時間が、スーパーキルンでは、なんと!半分以下に短縮できるというのです。エゼクト効果(気体を高速度で噴出させ流体圧力で他の気体を引き抜く?) とかで、温度を急上昇させても、作品が割れずに焼けるらしい。。。このあたりの仕組みは、当然、さっぱりわかりませんww

が、とにかく便利そうじゃないですか。
ガスの窯なので、ついていなければいけないのですが、でも、結晶のための練らしの時間を入れても5~6時間なら、たいしたストレスでもないし。。。なにより、電気窯で焼けば、9時間半+結晶のための練らし時間が2~3時間かかるので、翌日には、まだ十分に窯が冷めていない。つまり、連日焼くなんてことは不可能なのですが、スーパーキルンなら、それができるのです。
実験にはもってこいです。

しかも、もう使ってないから、いらないとおっしゃる。
ただですよ~、ただww
運命だ~!などと、またしても思いながら、
有り難~く頂戴して、実験が続きました。


(つづく・・・)

11.二足のわらじ

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話は変わりますが、実は、私は、今も二足のわらじで、小・中学生の受験勉強のお手伝いをする塾をしているんです。
当時は、三足のわらじで、それにプラス、ピアノ教室もしていました。午前中からは、陶芸をして、夕方からは、ピアノ教室やら家庭教師やら。

だって、もともと陶芸のほうは、陶芸家なんていえるほどの仕事にはなっていなかった上に、結晶釉なんていう、おかしなものに手を出してるわけですから、出費はかさむばかり。実は、結晶のもとになっている酸化亜鉛は、とっても高いww おまけに、釉薬が流れて、棚板はすぐにボロボロになる。その棚板もカーボランダムとかいう素材でできていてけっこう高い。そりゃぁそうですよね、1200℃とか1300℃とかの温度に、さらされ続けても何も起きないような素材ですから。何かをして資金を調達しなければ、悠長に実験なんてできるわけがないわけです。

まぁ、そんなおかしな生活を、文句も言わずに見守ってくれていた両親には本当に感謝しかないわけですが、この仕事があったから、今の結晶釉に辿り着けたと思うと、なんとなく、この仕事にも思い入れがあるわけです。当時は、早く陶芸一本に絞れるようになりたい!なんて思っていましたけれどね。
今は、このスタイルを、かなり気に入っていたりしますw


(つづく・・・) 

12.副業事件

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そうそう、ちょうどそのころに、某地元新聞社主催の徳島の陶芸家展みたいなイベントが毎年開催されていて、ある年、師匠が推薦してくれたんです。ところが、新聞社の担当者から電話がかかってきて、ピアノ教室とか塾とかしてると言うと、副業がある人は、出展してもらうわけにはいかないとおっしゃる。
「そんなの、こっちから願い下げよ~!」とは言わなかったけれどwwそう思って、辞退したことがありました。

まだ、私も若かったですし、結晶釉だって、まだまだ成功の兆しすら見えていない時期でしたしね。なんだか、すごくいや~な気持ちになったのは、今でも覚えています。
だから、その後、再び話がきても、受けたことはないんです。私、執念深いですね~ww 師匠には頑固者だと言われてます。。。まぁ、その陶芸展は、今はもう、やっていないみたいですけどね。

今なら、これが私のスタイルですと、胸を張って言えますけれど、
当時は、そう言うだけの自信もなかった。。。

なんだか、話が脱線してしまいました(^^;)
で、実験の続きですよね。


(つづく・・・) 

13.窯の中の温度

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 スーパーキルンで、日々、焼いているうちに、窯の中の温度差でも結晶の出方が変わっているのがつかめてきました。っていうか、そんなこと、もっと早く気づけよって感じですww

小さな窯ですが、それでも、窯の場所によって温度差があるんです。既製品の釉薬は、そういうのまで考慮して、たいてい、どこで焼いても、うまく焼けるようになっているんです。ものすごく安定した釉薬。

一方、結晶釉は不安定極まりない。試しに、同じ釉薬をかけて焼いてみると、やはり、上段、中段、下段、それぞれ融け方が違うし、
ガスバーナーの炎の場所が手前だったので、手前か奥かでも違いがあります。温度計は1か所にしかないし、どうするの?なんて思いましたが、こういう時のために、ノリタケチップなるものがあるんです。

ブルーの1センチぐらいの円柱型のチップで、それを入れて焼くと、その溶け具合で、温度の違いがわかるというもの。そして、そんなのが、素人でも簡単に手に入るんです。いい時代になりましたよね~ネットで道具も原料も、買えてしまうのですから。徳島なんて田舎に住んでいても、ポチるだけで、宅急便のお兄さんが運んできてくれます。たぶん、20年早く生まれていたら、こんなことはできていなかったと思うんです。いい時代に生まれました。

で、いい温度帯を今までよりも厳密に探る武器も増えて、まだまだ実験は続くわけですが…。

(つづく・・・) 

14.しなやかに逞しく

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 だんだんと、失敗を繰り返すうちに、人間の心って強くなるものなんですね。さすがに、へっちゃらとまではいきませんが、窯を開けたときの落ち込み具合は減ってきますwwでも、お金もかかるし、なかなかコンスタントにうまくいきそうな着地点はみつからないし、どこかで辞めなきゃいけないよな…と、漠然とは思っていたんです。

やっぱり、素人が手を出して、どうにかなるようなものではないんじゃないかと。。。やっているプロだって、極端に少ないですしね。

たまに、どこかの窯元と話をする機会があったりすると、何をやっているのか?などと聞かれるわけです。「結晶釉?」なんて、半分バカにしたように、笑われるんですよね。「じゃぁ、ポットミル、回してるの?」なんて言われたりもする。ポットミルというのは、釉薬を均等に粉砕して混ぜる器具で、まぁ、普通、陶芸家はそれで釉薬を作るんです。でも、私は乳鉢かミキサーwwそう、キッチンで、ガーッてやるあのミキサーです。そしたら、また「ミキサー?」なんて、驚きと失笑ですよ。今でも、ミキサーとほぼ100均で揃えた道具でやってますけどね。クッキングとそう変わりないです。それでも、できてますけど、何か?って感じです、今ならww

たまに来る窯のメーカーさんにさえ、「この窯で結晶釉ですか?」なんて言われる始末。えー!!、お宅の窯使ってるのに、それはないでしょうよー、って思ってましたが、なにせ、完成していないわけですから、反論のしようもない。

でも、こういう経験を重ねるうちに、しなやかに逞しくなるんですよね、人ってww 実は、自分でも驚いてたんです。思ったより、しぶといww

(つづく・・・) 

15.発想の泉

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だいたい失敗ばかりが続くわけですが、その中に、時々、ちょろりといい気配がするのが紛れていたりするんです。本当に神様は意地悪です。(別に信者じゃないですけどw)しかし、そういうのがあると、ついつい期待してしまう。

それで、その頃に決めたんです。
発想の泉が枯れたら、その時は諦めてやめにしようって。

窯を開けて、焼きあがったものをあれこれと検証するたびに、
次は、こうしたら…とか、
こうしてみよう…とか、
ここが変えられる…とか、
その頃は、とにかく、次々と、何かを思いついていたんです。自分でも、よく思いつくよなぁ・・・なんて思うくらいにww だから、それを思いつかなくなった時が終わりだなと思ったんです。

それで、そうこうしているうちに、調合も、こんなやり方では、らちがあかないと思い始めて、ついにゼーゲル式に手を出しました。
そんなめんどくさそうなことは、しないはずだったのに。。。ww

(つづく・・・)

16.ゼーゲル式

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ゼーゲル式というのは、ゼーゲルさんという人が編み出した釉薬調合の計算式です。
簡単にいえば、釉薬に使う原料の成分から、どの成分が何モル入っているかを計算して、それぞれのモル比をもとに、その釉薬がどういう雰囲気になるかを調べられるものです。(んー、文字で書くと全然簡単そうじゃないw)

アボガドロ定数なんて、高校の化学以来ですよ。モルなんて、久しぶりに使いました。だから、面倒だと思っていたのですが、手を出してみると、思った程ではない。そういえば、文系だったけど、化学の点、良かった気がするわ~みたいなww 高校化学レベルでできるんじゃん~って感じです。

こんなことなら、もっと早くしておけばよかった~、なんて思いながら、今度は、ひたすら計算。今まで実験してきた調合のすべてをゼーゲル計算して、酸化アルミニウムとケイ酸の比を出していきました。そうすると、この調合は、結晶が出るはずないな~というものもけっこうあって、それは実際に焼いたら出なかったものなんですよね。いや、本当にもっと早くしておけばよかった…って感じですよねw

それで、少しずつまた調合を変えてみて、実験を繰り返すうちに、
他の成分トータル1モルに対して、酸化アルミニウム:ケイ酸=0.17:1.5くらいがいい感じじゃない?ってところに辿り着くわけです。といっても、実際に調合する原料は、珪石や長石なので、その中にどれくらいの比率でそれぞれの成分が混ざっているかは、産地によって違うし、さらには、同じメーカーから仕入れても、時期によって微妙に違うはず。ですから、計算は、あくまでも目安でしかないのですが。。。

とはいえ、私的には、大前進でした。


(つづく・・・) 

17.焼成曲線

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 焼成方法もあれこれやってみました。不安定極まりない釉薬ですから、本当に、練らしの温度が5℃違うだけで、けっこう変わるんです。1200℃も上げるのに、5℃くらい…とか思ってましたが、いやいや、5℃は重要ですww

それに、磁器のシャープさは、それはそれで好きなのですが、やはり、土の柔らかさの方が好きなんですよね。そうなると、陶土か半磁土(半分磁土で半分陶土っていう粘土)で作りたいわけです。そうすると、やっぱり、最高温度は1230℃程度にしたいなんて思うわけです。

ところが、最高温度が1230℃では、いい感じに釉薬が溶けない。。。
ん。。。と思っていた時に、昔ちょっとだけお世話になった京都造形芸大の集まりがあって、なんとな~く参加したんですね。打ち上げの飲み会で、たまたま同席した教授に、釉薬が溶けるとか、溶けないとかいう話をしたような気がします。「練らし時間を伸ばしたら、かかるカロリーが上がるから…」どうのこうの・・・なんて話になったんです!
これだよー!!って思いました。嬉しくって、思わず飲みすぎて、(差し向かいに座っていたおじさんが飲ませ上手だったんです)翌日は、二日酔いのまま京都から帰りましたww

さっそく、最高温度の練らし時間を伸ばしてみました。流れずに溶ける時間を探すのです。ついでに、900℃でも練らしてみたり。。。とにかく、思わぬところにヒントは転がっているものです。

そんなこんなで、発想の泉が枯れてしまう前に、なんとか着地点がみつかったというわけです。


ところが・・・


(つづく・・・) 

18.誤差

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 ようやく、まずまず安定した調合と焼成曲線が見つかって、
必要な原料をたくさん仕入れて、調合しました。これで、やっと結晶釉に絞って創作活動ができる!と思っていたのですが、人生、そんなに甘くはありませんよね~

原料の仕入れのロットが違うと、成分に誤差が生じるんです。同じ調合で、同じ焼成曲線で焼いているのに、結晶が出ない。。。
これじゃぁ、出来損ないの透明釉じゃんー!!っていう事件が起きたのです。

おそらく、原因は、酸化亜鉛。
結晶釉は、キラキラのもとになる酸化亜鉛を、約25%も入れるんです。その酸化亜鉛が、実験で使っていたのよりも、白い。きっとこれに違いない!!と思って、メーカーさんに問い合わせてみたものの、「誤差の範囲ですから…」という返事。
確かに、一般的には、その程度のことなのだと思うんです。でも、結晶釉にとっては重大問題。しかも、30キロも買ったのに、どうしよう~ですよ。

でも、仕方がないので、別のメーカーから買ってみました。恐る恐る10キロ程度。だって、けっこう高いですからね、酸化亜鉛ww
綺麗なクリーム色の酸化亜鉛が届きました。これなら大丈夫なはず。。。。

またまた恐る恐る窯を開けると、今度は綺麗な結晶が出ていました。実は、これには、後日談があって…

(つづく・・・) 

19.酸化亜鉛

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 神戸で個展をしたときに、結晶釉を手掛けているタイル会社の方が来てくださったことがあります。その時に、先の白い酸化亜鉛の話をしたんです。きっと、たくさん扱っていらっしゃるから、そんなこともご存じなんじゃないかと思って。。。

そうしたら、やっぱり、白いのでは出にくいという話になったんですね。酸化亜鉛には、生のものと煆焼(ちょっと焼いてある)のものとがあって、結晶釉では煆焼のものを使うのですが、生みたいに白いのがたまにあると。。。で、それは結晶が出づらくて、交換になったとかなんとか。。。

ん?その交換されたのが、うちへ来たんじゃぁないのぉ~?なんて思いましたが、仕方がない。10キロや20キロしか買わない個人には、そういう弱みもあります。。。いや、あの時は30キロも買いましたけど、所詮個人レベルの購入量です。仕方がないです。今も工房の片隅で、眠ってます。そろそろ風邪ひいてるんじゃないかなww

(つづく・・・) 

20.愛しき不安定!?

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そんなこんなで、ようやく自分の結晶釉が完成して、結晶釉に絞って創作活動をするようになりました。しかし、不安定な釉薬であることには変わりありません。今でも、よくわからない部分がたくさんあります。

時々、結晶釉のことを教えてください、なんてメールをいただきますが、出し惜しみをしているわけではなくて、本当にわからないんですよーww私だって、素人が試行錯誤を重ねて、なんとか辿り着いてるというだけで、化学的に理解しているわけでもない。同じ釉薬をかけて、同じところに入れて、同じように焼いたのに、結晶の大きさが違うこともよくあります。

調合するときには、ミキサーでガーッてやって、大きなたらいにいっぱい作るのですが、時間経過とともに粘度が変わってきて、そのあたりの加減は、もう勘に頼るしかない。未だに、喜んだり、がっかりしたりの連続なのですが、それでも、結晶釉から離れられないんですよね~もう、中毒? 依存症ですか~?私ww

まぁ、このようなわけで、結晶釉と出会い、付き合っていくことになってしまったというお話でした。
「どうして結晶釉をやっているのですか?」とか「どうやって作るんですか?」とか聞かれることも多いので、ちょっと振り返ってみました。
取るに足らない話ですが、最後まで読んでくださった方には、感謝です!
ありがとうございました。


(おしまい)

追記

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この「story」を書いてから十年近くになりますが、今(2024)なお、結晶釉の研究は、亀の歩みながらw続けております。

昨年末、結晶釉を扱う作家さんたちとのグループを作り、そのグループ内では、私はできる限り情報の抱え込みをしないようにしています。なぜなら、私がしてきたことを、そのままデータ化して伝えれば、それを活用することで、意欲のある若い方たちが結晶釉をさらに進化させてくれるだろうという思いがあるからです。
やっぱり、いい年になってきたからには、そういうことも考えなければなるまい。。。w

工芸の世界では特に、秘伝的に情報を囲い込む体質が強くありますが、今の時代、それではあまりに歩みが遅すぎると思うのです。もちろん、伝承的に受け継がなければ、あるいは、実際に自分が手を動かしてやってみなければ、真には理解できないこともたくさんあります。しかし、それだけでは存続・発展は難しいとも思います。

なかなか難しい部分ではありますが、ここまで私がやってきたことが何かの形になって残ればいいなと漠然と思っています。
ここまでくると、もう生涯学習のようなものですw 今でも、良いという原料があれば、それを調合するために、相も変わらずエクセルでゼーゲル計算ばかりして過ごす日もあります。ほぼ遊びですが、もし、この先もず~っと続けられれば、それはそれでなかなか有意義な老後が過ごせるかもしれませんw まぁ、そんな思いで、細々と結晶釉を続けている53歳です。